茨城県鬼怒川の洪水被害と堤防の決壊(土でできている堤防は越水で簡単に決壊)
2015年9月に、茨城県鬼怒川の河川堤防が、決壊(破堤)して、大きな被害が出ました。
基本的に河川堤防は、維持管理が行いやすい、土盛りでできています。
そのため、豪雨により河川水が堤防を越水(えっすい – 堤防などの頂上から流出する水)すると、流れ落ちる水の力で、土で盛られた堤防内側(住宅側)は浸食され、堤防は自立できなくなり、簡単にくずれます。
作用川(兵庫県)も越水で決壊しました。同じく兵庫県の、加古川や円山川でも、越水で堤防が決壊しています。
鬼怒川を中心として、河川堤防の決壊について、そのメカニズムはどうなっているのでしょう?
鬼怒川など河川の堤防決壊による洪水被害
台風17号に刺激された秋雨前線で、鬼怒川では、48時間で370メートルと、100年に一度の大雨により、茨城県常総市の若宮戸(わかみやど)で、越水による浸水被害が発生しました。
上流の茨城県の鎌庭(かまにわ)で、水位がピークに達したため、と言われています。
その後、三坂町で堤防が決壊し、大規模な洪水被害が発生しました。
洪水により、土盛り堤防内側は、浸食でえぐられ、さらに、濁流で掘られた池状の穴が発生しています。
決壊要因のひとつとして、水海道付近(みつかいどう)に、河道狭窄部(狭い川)があり、その急速な水位上昇があります。
旧河道上に、決壊地点が位置しており、ここは昔から、河道の付け替えが、行われていました。
河道とは、河水の流れる道のことです。
堤内の土地は、自然堤防に集落があるほかは、水田などの農地です。
若宮戸(わかみやど)地区の堤内には、自然堤防上にソーラパネルがあり、浸水し、破壊されました。
パネル形成時、この付近の林が伐採され、自然堤防を削っていたので、その影響もあるとの報告もあります。
堤防決壊の原因は、新聞各紙は、越水により、堤防内側が削られたことによる、と報告しています。
しかし、大豊は、越水の証拠はないのです。
堤防法面(のりめん)に、水がしみ出していたとの住民の報告や、決壊箇所上流の、堤防法尻(のりじり – 法面の一番下の部分)に、パイピングでの噴砂の報告などから、堤防内部に浸透水による崩壊としています。
法面とは、建設工学用語。一般には切取りまたは盛土によってつくられた人工的傾斜面のことである(図)が,自然傾斜面ものり面ということがある。切取りののり面は,もともと安定していた自然の地盤を切り取ってその安定を破壊するものであり,また盛土ののり面は,盛土の施工後日の浅いうちはまだ十分に安定していないので,大雨などの状況の変化によってしばしば崩壊を起こすことがある。のり面崩壊の原因は種々あるが,雨水や地下水の浸透などによる浸食,風,気温などによる風化作用,また,地震による振動や地震力などがあげられる。【コトバンクより引用】
決壊付近の堤体盛土(ていたいもりど)の下は、軟弱な沖積砂層(流水によって運ばれてきた土砂などが堆積たいせきした砂の層)からなり、不安定な地質のため、堤体では、浸透破壊が生じた可能性があります。
なぜなら、土盛り堤防は河川水位の高い状態が長く続くと、堤防に水がしみ込み、土が水に浮くような状態で弱くなり、さらに、水流が強くなると、堤防自体が壊れ出します。
堤防のすぐ下の沖積砂層も、浸透現象を起こしやすい層なので、より浸透が進んだと考えられます。
旧河道の付け替えも、影響している可能性もあります。
決壊の原因は、詳細な調査が望まれます。
鬼怒川には、上流に、洪水調節をする規模の、大きなダムが四つもあります。
国土交通省によれば、ダムがなければ、およそ30センチの水位が、高くなったと報告しています。
しかし、常総市水海道の雨量は、144mm/24時間でした。このことを考慮すると、なぜこれほどまで、大きな被害になったのでしょう。
上流部のダム建設を後回しにしてでも、整備の遅れていた、下流部の堤防箇所を、整備しておけば、大きな洪水被害にならなかった、と考えることもできます。
河川堤防決壊のメカニズム
堤防決壊は、主に三つの、メカニズムが考えられます。
一つ目は、越水です。
河川水位が大雨で高くなり、堤防を越えてあふれ出し、その濁流が、土堤防の内側(住宅側)を浸食し、削り取りが進行すると、一気に崩れます。
二つ目は、浸透です。
大雨で、河川水位が長時間上がると、河川水が堤防に浸透します。
その状態が続くと、浸透した水は、堤防内側に出てくるなど、水の通り道が形成され、水とともに堤防土砂が流れ出し、堤防が崩れます。
三つ目は、洗堀(せんくつ)です。
洗掘とは、流水や波が、川底・海底や堤防の表面などを削り取ること。【コトバンクより引用】
河川の強い流れによる、水の力で、堤防外側(川側)が、削り取られていきます。
損傷した部分は弱くなり、強い水が流れ、さらに削り取られ、最後は堤防がすべり出して崩壊します。
実際には、これらの要因が、同時に関係していることが多いのです。
越水が生じると、天端(てんば)や裏のりが、洗掘(せんくつ)され、破堤に至るので、天端を舗装して、洗掘に耐える構造にするなどの工夫が必要です。
天端とは、堤防やダムの最上面。管理用の道路としても利用される。【コトバンクより引用】
「のり」とは堤防の法面の略で、堤防の上から見て川側ののり面を表のり、市街地側ののり面を裏のりと言います。【Weblio辞書から引用】
表のり面の洗掘は、河道屈曲部などで発生します。
裏のり面は、浸透水の湧出(ゆうしゅつ – 地中からわき出ること)により、洗掘被害を受けます。
河川水位が上昇する要因として、河道や川の屈曲部が、急に狭くなるなどがあげられます。
また、川の合流付近では、流れが妨げられ、水位が上昇します。
鬼怒川も、利根川との合流点が下流にあり、しかも上流部のほうが、川幅が広いため、容易に水位があがり、越水した可能性があります。
河口付近では、河川勾配が緩やかになり、さらに、満潮時では、海水が逆流するため、水位が上昇します。
越水しても被害を最小にする対策を
災害復旧工事は、前提として、川の水はあふれると考え、越水しても、護岸が浸食されないように、遮水工事などで防ぐことや、河川拡幅、二重堤防、遊水池の設置など、総合的な治水計画で、減災するシステムが急がれます。
しかし、地方自治体の貧困財政が、防災工事の進捗を、遅らせているのが現実です。