地震で発生する火災
地震は複合災害です。
地震の揺れに耐えて、被災を免れても、揺れが収まったあとの災害も、想定しておく必要があります。
東日本大震災の被災の多くは、地震動そのものよりも、津波による被害です。
同時に火災も発生して、津波が火災を広げたのです。
阪神淡路大震災でも、大規模な火災が発生しました。
1923年に発生した、関東大震災では、亡くなった人の、9割近くが、火災によるものです。
こうした火災被害まで含めて、地震災害なのです。
電気やガスは、水道と並んで、生活する上で、大切なライフラインです。
被災直後には、途絶えることも多く、復旧が急がれます。
電気やガスは、火種になる心配もあります。
地震が発生したら、火災にならないよう、ガスを止めるのは定説です。
では、電気とガスのどちらが、危険なのでしょうか。
阪神淡路大震災で、その答えは明確に出ています。
電気による火災の方が、ガスによる火災件数よりも、6倍以上も多く発生しています。
今のガス設備では、強い揺れがあれば、マイクロメーターが作動して、ガスが遮断されるようになっています。
それは、都市ガスだけではなく、プロパンガスでも同様です。
マイクロメーターの普及は、プロパンガスのほうが、早く普及しました。
一方、電気が原因となる火災は、阪神淡路大震災でも東日本大震災でも、6割を超えています。
とくに、寒い時期に発生する地震では、ストーブなどのそばに、落下物が接触して出火しています。
さらに、地震直後に発生する火災と、時間が経過してから、発生する火災があります。
東日本大震災で発生した、火災163件のなかでは、電気が原因となった火災は、108件あったそうです。
これは約66パーセントで、3分の2にあたります。
そのうち21件は、停電からの復旧後に、出火しているのです。
地震後、ライフラインの復旧は、見守りながら
こうした電気による出火を防ぐには、地震動を感じて、自動的に電気を遮断する、感電ブレーカーが必要とされています。
最も簡単なものは、分電盤に設置されたオモリが、地震動で落下して、その勢いでブレーカーを切るものです。
これは数千円程度で設置できます。
電子回路で揺れを感知して、ブレーカーを遮断するタイプは、5万円から8万円くらいします。
さらには、揺れを感知する親機から電波を出し、対象となるコンセントのみを、遮断する装置もあります。
しかし、設置率は、ガスのマイクロメーターには及ばす、1パーセント未満といわれています。
こうした装置をつけていなければ、被災時に、一時的でも家を離れるときは、必ずブレーカーを落とすことを忘れてはいけません。
せっかく助かったのに、このせいで、家が燃えてしまいます。
さらには、延焼により、他人をも巻き込んでしまいます。
火災の原因になるのは、電気を使った熱器具への通電だけが、原因ではありません。
地震の時には、家を激しく揺さぶられます。
このときに、家中の壁や天井の裏側に、張り巡らされている電線にも、相当な負担がかかっています。
この時に傷ついた電線に、電気が復旧して、通電することで、ショートおこし、発火することがあります。
スマホをはじめとした、情報機器を活用するためにも、電気の復旧は急がれますし、ライフラインのなかでも、比較的早く電気は復旧するものです。
しかし、安易に復旧を喜ぶのではなく、しっかり部分的に通電を見守りながら、復旧を迎える必要があるのです。
地震の後の安全はまだ安心ではない
家の中の危険ばかりを、心配してきましたが、家の外に慌てて飛び出すのは、最も危険な行為の1つです。
家の外には、たくさんの危険があります。
建物以上に、ブロック塀などの建造物のほうが壊れやすく、瓦礫の落下物もあります。
避難所として指定されるほど、広い場所に避難しないかぎり、一般的な住宅街では、外部の方が危険だと思われます。
そもそも、外に逃げようと考えることは、家の強度信頼していない、ということにもなります。
信頼できるだけの強度を、確保することができていれば、むしろ、家の中の方が安全なはずです。
避難所として指定されている施設も、指定されることによって、地震に強いものと、思い込んでしまいます。
東日本大震災では、体験したこともない津波を受け、避難所だから大丈夫と思い、高台に逃げ遅れて、被災したケースもありました。
残念ながら、本当に安全であるかどうかの基準は、人が決めていることです。
安全だと思っていたところが、被災すると、安心感が崩れます。
じつは、安全であることと、安心することは、違うことなのです。
ナショナル・レジリエンスとは?
ナショナル・レジリエンスとは、どのような災害が発生しても、被害を最小限に抑え、迅速に復旧・復興できる、強さとしなやかさを備えた、国土・地域・経済社会を構築すること。第二次安倍内閣の主要政策の一つ。国土強靭化のこと。(※コトバンクより引用)
国が進めている、国土強靱化には、ナショナル・レジリエンスという言葉が使われます。
あまり聞きなれない言葉ですが、レジリエンスとは、心理学用語で、精神的回復力や抵抗力、折れない心を表わしています。
災害に遭遇しても、懲りずに復興に向けて、立ち上がっていく心が、レジリエンスです。
そのためには、日常的な訓練や、毎日の生活の中での、密着して災害対策が、必要とされています。
単純な安全性の検証ではなく、レジリエンスを養成することが、大事なのです。
これを象徴する内容が、やはり、東日本大震災でもありました。
明治時代の、東北三陸の大津波で、被災した地域の中で、碑石をたてて、これより下に家を建てるな、と警告を発していた地域では、被災を最小限に、抑えることができました。
しかし、堤防を築いて、津波を、せき止めようとしていた地域では、大きく被災しているところがあります。
大きな堤防ができれば、安心を手に入れたかのように感じて、日頃からの訓練がおろそかになりがちです。
しかし、石碑で、津波の危険性を、後世に残されていた地域では、日常的に、津波に対する意識が高まっています。
レジリエンスの心が育っているからこそ、現実に被害が少なくてすんだのです。
その意味では、建物の強度だけではなく、暮らしに密着した、地震災害への取り組みを、検討しておくことは、大事なことです。
さらに、建物そのものの強度についても、理解を深めることも、大事な地震対策の一環となるはずです。
庭訓(ていきん)とレジリエンス
庭訓(ていきん)とは、家訓のようなものですが、日常的な作法について、残しているものです。
たとえば、敷居は踏むなとか、木の柱は水で磨くな、などのような作法です。
代々、家訓を残すことで、嫁や婿を迎えても、永続的な家の存続を、願ったものだったのでしょう。
言葉で表わして、意思を伝えることが苦手な日本人は、家の中の、さまざまな作法も、手紙の形として、残して伝えてきました。
もう一つのレジリエンスは、もともと、物理用語でしたが、心理学でも使われるようになった言葉です。
そして今、震災復興や、社会インフラ整備の言葉として、国も使い始めています。
国土強靱化は、「national resilience」(ナショナル・レジリエンス)と訳されています。
日本語訳は、定着していませんが、レジリエンスとは、外力で生じた歪みを跳ね返す力であり、心理学的には、不利な状況にあっても、平常心でいられる能力を表わし、耐久力や復元力、折れない心と訳されています。
この2つの言葉が、どこか共通しているところがあると感じます。
大きな災害がくるのは、残念ながら、一度きりではありません。
熊本地震のように、震度7の地震が、2度来ることもあります。
余震も続きます。
災害復興とは、その被害から、一度だけ立ち上がれば、すむことではありません。
復興するためには、折れない心が必要とされるのです。
津波の災害に対しても、大きな堤防をつくれば、それで解決するのではありません。
次の災害に備えて、訓練を怠らないことも大切です。
たとえ、堤防が完成したとしても、大きな地震がきたら高台に逃げろ、という教えを、なくしてしまうわけにはいかないのです。
東日本大震災での、奇跡の一本松は、確かに、次の防災のためには、役立たないかもしれませんが、レジリエンス、イコール、折れない心を象徴しているものです。
非常時にくじけないためには、日常の活動そのものが、いちばん大切なのです。
その活動そのものが、レジリエンスを、強くする、ひとつの手立てになっているのです。
非常時を想定した日常活動です。
庭訓(ていきん)は、まさに、現代のレジリエンスを、織り込んだものなのです。